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霊長類ヒト科アゲアシトリ属ジュウバコツツキ目の妄想多め日録

世界人権デー・ピースマーチ@神田~秋葉原

12月8日(土)、10日の世界人権デーを前に主催 スチューデント・フォー・フリー・チベット・ジャパン(SFTJ) 、共催 在日チベット人コミュニティー、協力 世界南モンゴル会議(クリルタイ)、在日東トルキスタン人会で行ったピースマーチの様子をお知らせします。

 

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まずは午前中に、東京・麻布の中国大使館前で行ったチベットウイグル南モンゴルの人権状況の改善を訴える抗議行動の模様をどうぞ。

 

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午後は中央区日本橋本石町4の常盤公園(近くに工事中の常盤橋公園があってまぎらわしい!)に午後二時に集合、二時半に常盤公園を出発し、秋葉原を経由して昌平小学校わきの芳林公園をゴールに午後三時半ごろ解散しました。

 

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参加のみなさん、沿道で賛同してくださったみなさん、目を止めてくださったみなさん、ありがとうございます。最近ウイグルの惨状が報道で伝えられているとおり、中国政府による市民への弾圧はとどまるところを知りません。中国政府が何をしているのか、世界で何が起こっているのか、関心を持っていただければ幸いです。 

 

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お題「今日の出来事」

アクラム・カーンの『ジゼル』@東劇

www.youtube.com

 

イングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)団による、振付家アクラム・カーンによるまったく新しい『ジゼル』の映像版を東銀座の東劇で見てきました。東劇での上映期間は11月30日~12月6日、間をおいて12月14日~21日なのですが、その前半期間に滑り込みで。

音楽のせいかバレエ魂より演劇魂を揺さぶられる映像体験です。オペラ版の『カルメン』に、歌曲「流浪の民」、ネットフリックスの女子刑務所ドラマ『オレンジ・イズ・ニューブラック』、アニメ『まどかマギカ』とかいろんなものを思い出すけど、たしかにこれは今様ジゼルだと思えます。ウィリたちがゾンビっぽくて怖くて、アマゾネスを思わせる強さなのも最高。ウィリたちの女王・ミルタは闘いの女神・ヴァルキューレのようでもあります。

そして、現実世界で、難破した難民船から浜辺に打ち上げられたあの子どもは、アクラム・カーン版のジゼルとアルブレヒトの子だったかもしれない、という妄想に至ったり。

www.afpbb.com

 

ビジュアルとしては、権力者側の女性のドレス、特に白くて横に嵩張ってるまどかマギカの魔女みたいな人が気になる! ビーズのヴェールをかぶってる人は少しアルブレヒトと絡むシーンがあってよかった、けどこちらももっと衣裳を見たかった! と思ったらこんな動画が。ありがとう、ENB!

 

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今作では、アルブレヒトの正体が暴かれる場面として、大公がアルブレヒトに音を立ててキスするシーンがあるのですが、なんだかシチリアマフィアとかの「こいつは仲間だ」と内外に示す身振りのようだな〜、と思って見ていました。オリーブ園でのユダからイエスへの接吻も思い出すシーンです。というか、相手の身分を周囲に知らしめる西洋的文脈でのキスシーンは、そもそも聖書のあれに端を発しているのかもしれないけれど。

あのキスの、派手で際立ったジェスチャーじゃないと意味がない、親密さのない、中身のこもっていなさが怖くて、アルブレヒトもそういう世界からの逃避先がジゼルだったのかな、とか。原作と違って権力者側に戻れない怖いラストも、裏切り者は去れ、あるいは、一度転落すると元の位置に戻るのが難しい現代っぽいな、と思いました。

そんなわけでアクラム・カーンの『ジゼル』、最高なので東京は12月14日~21日、札幌、大阪、名古屋では12月20日まで、神戸では12月21日~1月3日に上映されますので、ぜひ行って目撃していただきたいです!

www.culture-ville.jp

 

ところでENB公演といえば、英語ツイートで「結局このイメージ写真と違ってプレシャス・アダムス、白鳥踊ってないじゃん」の意のものを見かけて気になっています。うーん、どうなのだろう。今回の『ジゼル』ではウィリたちの一人を踊っていましたが……。

 

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さて、東劇に行ったので久々に銀座、有楽町界隈を歩いたんですが、クリスマスのイルミネーション、大変です! 有楽町駅前はなぜか葱が林立、銀座数寄屋橋交差点近くではロシア十字的なものが!
銀座のクリスマス、どうなっちゃうの? 有楽町はまさか初音ミクとコラボ?


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お題「最近見た映画」

『マシュー・ボーン IN CINEMA/シンデレラ』@恵比寿ガーデンシネマ

matthewbournecinema.com

東京は恵比寿で十一月二十三日までなので見に行きました。映画ならエンドロールになるところで思わずというか、思いがけず落涙。舞台は1940年の空襲下のロンドン。そこでは田舎に疎開もできない庶民はみんな、男女関係なく「灰かぶり(シンデレラ)」だったんだよ、というマシュー・ボーンの祖父母世代への思いを受け取ったと感じたからかもしれません。とにかくみんな灰色バリエーションか黒白、軍用カーキ色メインで、シンデレラの白と銀の「舞踏会」ドレスと真っ白な天使以外はくすんで煤けているのです。

ストーリーは家の中で存在感のないお父さんのやるせなさとか、ゲイなのを母に押さえつけられてる兄弟の行く末とか、主役だけにフォーカスが当たっているわけではない丁寧な人物造形はさすがマシュー・ボーン。ほかにも邪悪なのは継母だけで、姉さんたちはそれに引き摺られてただけで、芯から意地悪じゃないのもよかった。天使は『ベルリン 天使の詩』からのインスパイア+仙女のキラキラ感という感じ。

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そんな翻案っぷり、演出・振り付けの無駄のなさは、シアターオーブに来日公演を見に行かなかったのをちょっと後悔。ただ、わたしにとってシアターオーブはあまり見やすい劇場ではないので……。Bunkamuraだったら行ったんだけどなあ。

 

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お題「最近見た映画」

魔夜峰央原画展第2期@米沢嘉博記念図書館

若い頃は髪型、体型(要するに痩せていて胸がない)、おでこの真ん中にビンディを付けるのにちょうどよいくぼみ(水疱瘡の痕と思われる)がある、目が横に大きい、毒舌(空気が読めないため)、などから、「ラシャーヌに似ている」と言われ、魔夜峰央作品の中でも特に親近感を抱いていたのに、第1期の「ラシャーヌ!特集」を見逃したので、第2期の「短編怪奇マンガ特集」からは見なければ、と行ってきました。

www.meiji.ac.jp 

思っていたより生原稿のサイズが小さくてびっくり。その思ったより小さな原稿用紙への細かい細かい描き込みにもびっくり! すべての生原稿がそうだったけど、ベタに白抜きがホワイトではなく、ほんとに「抜き」なのも衝撃的! 美しすぎる生原稿! 生原稿がこんなに美しくてよいのだろうか?! 嗚呼、第1期を見逃したのが悔やまれる……。

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なお会場にはボタンを押して再生するミーちゃんボイスメッセージがあるのですが、その声音とか喋り方、あと再生環境のしつらえがミッチーっぽい! いや逆か、ミッチーが影響受けてるのか?

あと、◯◯を描くのが苦手だったというボードの記述にびっくり! えええ、パタリロには特に欠かせない◯◯なのに?!

ところで学術論文では雑誌は一重鉤括弧、単著は二重鉤括弧と習っていたので、原画展のボードではそれが逐一逆でちょっと面喰らいました。

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あと「黒塚」解説ボード9行目に衍字を発見。職業病……。

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お題「好きな作家」

レッスン覚え書き

・月二回と月四回の差

十月は二回しかレッスンに行けませんでした。その分、旅行に行ったりしていたので仕方ないといえばそうなのですが。

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今までこういうことをしていたところ、

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響灘でパノラマ撮影を覚えました

そして気づくと月二回しか行けない月と、四回、つまりほぼ毎週行ける月が交互にやってくる気がする……。無意識に月四回行ったあとは月二回にしている、というわけでもないのでしょうが、月二回しか行けなかったあとのレッスンは、三週間とか間隔が空いてしまうので、「サボると身につかない」をまさに身体で実感します。

 

・レッスンと音楽
レッスンスタジオの音響システムにはミュージカルナンバーの練習用バージョンも入っています。で、あまりバレエ音楽で練習することにこだわりのない先生だと、スタジオ備え付けのシステムのみで練習することもあります。
そうすると、ミュージカル『アニー』のあの有名な曲「Tomorrow」に合わせての練習になったりするのですが、正直、微妙……。到達できるかはともかくとして、白鳥とか姫とかを目指してレッスンしているのに、脳内にあの赤毛の爆発頭の女の子が出入りして、気が散るのです。

 

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ところで先生がバレエ音楽の練習用を使う場合、最初はテンポの遅い短調もしくはメランコリックな曲に始まり、だんだんとテンポの速い長調の曲へと遷移していきます。つまり、テンポの遅い曲=短調長調の曲=テンポが速い、と体感で記憶しているところに、「Tomorrow」というテンポが遅くて長調の曲が流れると混乱する、というのも気が散る理由かも。

『白鳥の湖』シュツットガルト・バレエ団@東京文化会館

フォーゲルとアマトリアンの『オネーギン』と同じ主役ペアでの『白鳥の湖』。同じペアで見た『オネーギン』もそうでしたが、メリハリ効いたアリシアに持ってかれたというか、最後まで運ばれた感じが強い『白鳥』でした。とはいえなにかこう、釈然としないものが残って、薄紙一枚のところで没頭しきれなかった気がします。

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というのも王子のキャラクターがいまいち理解に苦しむものだったから。
オデットと出会ったあと、舞踏会でロットバルトとオディールが登場する前、本来のお見合い候補の姫君たちが踊っている間も、「はいはい、いくらアピールしてもぼくはもうオデットちゃんに決めてますから~」とばかりにニヤニヤしているのです。

そして、王子はオディール登場の最初から満面の笑みで、なんの疑いもないご様子。なんなら「フォーマルだから黒のドレスに着替えてきてくれたんだね!」とでもいわんばかりの笑顔。結婚を誓おうと女王の前にオディールを連れて行っても、良心の呵責のようなオデットのまぼろしが出ないのが、完全にオディールをオデットだと信じ切ってた感に拍車をかける。なお、オデットのときと打って変わって、オディールは悪そうでとてもよい!

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そんなふうに王子が完全に逝っちゃってる一方、舞踏会に現れた禿頭面白メイクのロットバルトに女王も宮廷の女性たちも、そしてわたしも、「……」。宮廷の方々は王子以外はオディールともどもロットバルトを胡散臭げに眺めています。っていうか、女王は真顔でめっちゃ見てる。まああのメイクなら、そりゃ、見ますよね普通は。今回のクランコ版、ロットバルトが禿頭の面白メイクおじさんじゃなくて凄腕悪魔な外見なら、「天変地異レベルの洪水を起こして王子は溺れ死んでしまいました」がまだ納得できるのですが……。

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ちなみにロットバルトが禿頭じゃなくとも、げげっと思うような外見で舞踏会にやってくるのはほかのバージョンでもあるのですが、その際に面白メイクおじさんのロットバルトと女王が和やかに談笑してると、「おいおい、明らかにそいつ胡散臭いだろ。大丈夫なのかこの女王にこの王子でこの国……」と思ってしまいます。

それでもってそんな女王は王子が「この人と結婚を決めました!」とオディールを伴って宣言すると、心から安堵したり喜んだりするのです。それを見ると、「女王がこんなボンクラだから王子もまんまと騙されるんだよ!」と思ったり。

 

ですが今回の女王は、王子の「彼女と結婚したいです!」の訴えに安堵感などなく、「はいはい、この中からね」と四人の見合い相手を示す始末。

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最後の王子とオデットのパドドゥは、ロットバルトが現れてからはオデットがどんどん弱っていくので、ちょっとマノンの沼地のパドドゥっぽさがありました。マノンとは男女逆に王子は死に、オデットはロットバルトに連れ去られるのを見て、「また別の国のぼんくら王子に対して使われるのかな」と思ったり。

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それにしても、オデットは王子のどこを好きになったんでしょうね……。白鳥でいる時間が長くなればなるほど、生き残るために利用できそうなものは利用する、という動物っぽい行動原理になってしまったのか? あえて言えば王子の仲間が白鳥たちを射ようとしたのを止めたから、なのでしょうか。狩りの獲物になるものを見つけても、がつがつと狩らないところがよかった、とか? それにしても今日のはわかりにくかったなあ。

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終演後はソファでアンケートを書いてから空いたお手洗いに行き、『オネーギン』のBDを買って出ようとしたら、入り口カウンターで演出についてなにか物申したいおばさまがたが係の方に声をかけてました。ソファでも「彼をあんな風に扱うなんて!」と慨嘆してた方が。うーん、でもかなりアホ王子的な役作りだったと思うので後者は仕方ないのでは。

前者に関しては音楽については、かなり無理に繋げてるところもあって、うーん、と思うところも。むしろもう繋げず使えばよかったのに。振り付け的に無理だったんだろうけど。その点、どうしてもロイヤルのリニューアル版と比べてしまいます。

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衣裳はロイヤルよりも見応えあったかも。とくに群舞の衣裳はいちいち素敵で、かなりカブキグラスが活躍しました。とくに第一幕第一場の領民の胴着の刺繍や柄! そして、カブキグラスを使っていたので舞踏会での王子のニヤニヤがしょっちゅう目に入ってしまった、というわけです。

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◆おまけその1

しかし、この日の東京文化会館はマナーのない大人が多かった……。鈴の音とか(なぜ鈴? 応援上映じゃあるまいし)、ドロップ入りの缶をカラカラ言わせてる音とか、休憩時間に後ろから突進してきて押しのけていく年配女性とか。最後のは「うわ野蛮」と思わず見たら、「早くどかないのが悪い」的な悪態をついてるし。こんなに優雅で感傷的な悲劇を見に来ていて、そのような心持ちになれるのが不思議。

 

◆おまけその2

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今回のパンフレットより。やっぱりそうですよね! ブログにもかつてそれを書いたら非難コメントがついたりしましたが。

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◆おまけその3

タチヤーナ腐女子疑惑、勃発。

 

 

 『白鳥の湖』を見た後に会場で買った『オネーギン』のBD、自分が見たのと同じくフォーゲルとアマトリアンなのですが、手紙のシーンの表情を確認するのが今から楽しみです♪

https://twitter.com/chevre/status/1058751810666549248

『オネーギン』『マチュー・ガニオ ポートレート』『ボリショイ・バレエ 2人のスワン』

シュツットガルト・バレエ団メンバーの初日か、『オネーギン』が国民的作品の国のバレリーナのディアナ・ヴィシニョーワがタチヤーナの二日目か、それともオネーギンがパリ・オペラ座バレエ団のマチュー・ガニオの三日目か、悩みに悩んで初日のチケットを取ってから、『オネーギン』公演期間三日間がすべて休みのシフトに決定……。しかし、時間はあるけど全公演通しで見られるお金はないというつらさ。

なので二日目はマチュー・ガニオがオネーギンを踊るシーンの入っているDVDを自宅鑑賞、三日目は下高井戸シネマでバレエ映画を見ていました。

 

◆『オネーギン』フリーデマン・フォーゲル、アリシア・アマトリアン、シュツットガルト・バレエ団@東京文化会館

フォーゲルを見に行ったつもりが、アマトリアンに釘付けだった。ロビーのお花は来週の『白鳥の湖』に合わせて活けられた印象。舞台は美術もよかったです。第一幕で下手に屋敷の書き割り、上手は青空なのが、その空であるところに下から中央まで謎のラインがあって、なんだったんだろう?  というような不思議な点もあったけど。

 

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エリサ・バデネス、軽はずみなオリガ似合い過ぎ。アマトリアンのタチヤーナは本の虫で地味で内向的な喪女演技がすごい。まあ、この子にあの恋文もらったらイラッとする気持ちもわからないでもない。パーティでも公爵は彼女よりオネーギンと話したがってるし。

だからこそ公爵夫人になったタチヤーナの開花ぶりが眩しい。最初、彼女に見つからないようにキョドるオネーギンは、あの日のタチヤーナと立場が入れ替わったかのよう。夫妻が席を外しても、社交界に事情を聴ける知り合いもいないオネーギン。

けどそういう自分の立場を自覚してないのか、タチヤーナに恋文書いて、公爵の留守に忍び込むけど、もはやあの内向的なキョドってた田舎の少女ではない、公爵夫人たるタチヤーナに手酷く追い返される。でもそこでオネーギンに「ざまあ」と思えないのは、誰でも何かしらこうした若気の至りに心当たりがあるからじゃないだろうか。

演奏は、レンスキーが決闘の場に着いて踊り始めるときに音が大きく二回外れたのは残念でした。たぶんオーボエオーボエ難しいのはわかるけど、ミスの数もちょっと多すぎませんか東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団さん。

 

一夜明けて、アリシアの喪少女演技と夢の中の理想の自己、公爵夫人になってからの輝き、夫々のギャップの余韻醒めず。それを支えていたのはフォーゲルの隙のないテクニックだったな、と思い返したり。

フォーゲルのオネーギン、ほんとこのリンク先の二枚目からの写真たちのような「若いときの神経質な狭量さが乙女タチヤーナには繊細に見える」演技で秀逸でした。その神経質なところが歳経ても自分にしか向かないのが、今度は自分が手紙を破られるという事態に繋がる感じ。ほんと『オネーギン』って「昔、俺がふった女は俺のことずっと好きなはず」系クズ男をよく描いてる。

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「え、出てけって言った? いま、ぼくに、出てけって、言った?!」みたいなフォーゲルのこの表情! それにしても上のインスタ一枚目の若いときのタチヤーナと、こちらの歳経てからのタチヤーナ、同じ人物が演じているの、ほんとにすごい。

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ところで舞台の透かしの幕で、オネーギンのイニシャル「E.O」の周囲に書いてあった「quand se quitte pas honneur,il n'existe d'honneur」(うろ覚え)が禅問答のよう。原作にある言葉のフランス語訳なのかな? パンフレットにそういったことの説明が載っているとうれしいのだけど。

さて、こちらが今回のマチュ―のオネーギンになります。こんなにオネーギンが美しかったら、その周辺で悲劇が起こるのは仕方がないことだと思いませんか……!

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◆DVD『マチュー・ガニオ ポートレートパリ・オペラ座 究極のエトワールー』

というわけで見よう見ようと思っていた『マチュー・ガニオ ポートレートパリ・オペラ座 究極のエトワールー』。

 

 

原題は『Mathieu Ganio UNE ETOILE ROMANTIQUE』。原題はほんとそうだなあと思うのですが、これを日本語訳せよと言われると、難しい。究極だけどまずマチューの資質としてromantiqueなのが先に来るのであって、うーん。

それにしてもマチューは髭面でも美しいですね。解説の表紙や付いていた絵葉書の舞台姿は、男性ダンサーというより、ほとんど宝塚の男役のようなロマンチックさ。今日まで東京文化会館シュツットガルトバレエ団の『オネーギン』をやっていて、マチューも最終日に客演していましたが、オペラ座で踊ったときの映像もこのDVDにはあり、「この美しさのマチューのオネーギンなら魔性様だから、まわりが巻き込まれて自滅、本人も破滅してもしかたない……」としか思えない美しさ。ああ、やはりもう一日、チケット取るべきだったか……。

エトワールになって13年のベテランでもこうなのか、というところもちょっとあるけれど、生まれる前からエトワールへの道が準備されていたかのように、苦労を感じさせないのもあのお顔ならではのギャップかも。ただ、本人曰く、かなり繊細で、すごく考えすぎるタイプ、というようなことを言っていたので、常人には窺い知れない苦悩がありそう。

そして、もう引退したオペラ座女性エトワールとの映像がかなりあり、贅沢な気持ちになれます。

 

◆映画『ボリショイ・バレエ 2人のスワン』@下高井戸シネマ

今年の夏、暑すぎて見そびれていた『ボリショイ・バレエ 2人のスワン』を下高井戸シネマで。下高井戸シネマでは11/9(金)まで毎朝10:00から上映中です。以下、ネタバレありです。

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実際のバレエ学校やボリショイ劇場で撮影されているところに、「うわー、ありそう」なエピソードと、「いやいやいや、いくらなんでもそれはないでしょ」というエピソードをうまく組み合わせてドラマチックなフィクションにしてあります。

お金持ちの娘で『ガラスの仮面』の亜弓さんみたいな高潔な魂のライバルと思いきや、それはまだ彼女に余裕があったからで、後半そんな彼女がいきなり牙を剥いて毒を吐く、はありそうだけど、すでに正団員でプリマで『白鳥の湖』の主役なのに、自分のその毒や彼女の親の悪行が回り回って毒として作用していったん舞台から降りる、は、いやいやいやボリショイのプリマならそれでもそこは踊るでしょ? とありえなさを感じたり。

だって、ボリショイで白鳥を踊るって、こういうことですよ?

wedge.ismedia.jp

フィーリン その後torinosaezuri.wordpress.com

それでも、その空いた主役を、ソロイストではあるけど代役としてノミネートされていた貧しい家庭育ちの主人公が踊る前の葛藤(貧しい家庭育ち、反抗心旺盛でなかなかうまく行かない人生で、棚牡丹のオデットが受け入れられない、踊ることについて母親からぶつけられた言葉がたぶん足枷になっている、ニコラ・ル・リッシュ演じるスターダンサーとの縁の不思議などなど)がリアルで、力技で納得させられました。

そして流れるバレエ音楽もいい出来なのですが(エンドロールで流れるバレエのメジャー作品メドレーとか。チャイコフスキーだらけですけども)、認知症を発症した伝説のプリマの部屋に流れる置き時計の音など、映画館で聴くことに意義のある音の設計も、また心を打たれました。

バレエ学校のシーンでは、「指先は真珠を持っているように」「腕は雲を抱えているように」というバレエ教師のチェックになるほどと唸ったり。雲を抱えていたら、その天に戻りそうな軽さに押し上げられて、自然と肘が上がるはずですもんね。